小泉劇場へようこそ!〜vol.1〜


「さあ、小泉劇場のはじまりです。」(バトルロワイヤル風)



そう書かれた大きな垂れ幕が、19時の鐘と共に突如テレビに映し出された。
この日の国民放送はどこか違っていた。
19時のアイドルと言わている、アナウンサーの真壁典子が席につく。
彼女は机の上に原稿を置くと、毅然とした口調で喋り出した。



「みなさまこんばんは。今日の国民ニュースは、みなさまに現在の日本の真実をお伝えしたいと思い、番組の構成を一部変更してお送りさせていただきます。どうか、何卒ご了承ください。」



いつもとは違う彼女の様子に、番組の視聴者たちは何が起こったのかわからないという様子で、ただ画面を見つめていた。



「今の日本は、一部の大金持ちと小賢しい人間のパラダイス銀河です。一部なのです、一部。自分を金持ちだと思ってる、ちょっと財布の膨らんだ人も、勘違いしないでください。あなたも所詮、金持ちにこき使われる側です。いらなくなれば捨てられる人間、いいえ人間ではありません。金持ちの道具なのです。」



小さな会社を経営する村岡正弘(52)は、”何を言ってるんだおまえは”といった顔でテレビ画面をにらみつけた。



「このことに気付いてない人も多いことでしょう。私達は毎日が忙し過ぎて、周りを見ることができずにいますから・・・。でも、真実を見てください。あなたの周りを。あなたのすぐ傍の人の顔を。その人たちは今、幸せな顔をしていますか?笑っていますか?喜んでいますか?よく見てください。見てあげてください。そして気付いてください。私達は人間なんです。道具ではないのです。気付いてあげてください。人が人として生きることの素晴らしさに。」





と、そこに、漆黒の服に身を包み込んだ警察官が次々とスタジオに乱入してきた。



「機器を止めろ!放送を中断するんだ!」
「あいつを取り押さえろ!早くするんだ!」



警察官の一人が、アナウンサー真壁典子の腕を掴む。
彼女はすぐさまその手を振り解き机の上に上ると、叫んだ。



「どきなさい!資本家の犬ども!」



彼女のあまりの剣幕に数人が怯んだ。
が、次の瞬間銃声が鳴り響く。
弾丸は彼女の腹部を貫いた。




「あなたたちも、いい加減目覚めなさい・・・。」



彼女はそう言い残すと、その場に倒れた。




この様子がテレビを通して全国に放送された。
しかし、次の日もいつもと同じように、まるで何事もなかったかのように過ぎ去っていった。他人には干渉することのない現代の風潮が、そこに確かに存在している問題をも私達の目から遠ざけてくれるからだ。


想定されうる近未来の社会像を描いたものですが、これは全てフィクションです。
登場人物、その他全て実在のものとは関係がありません。