時間は待ってくれない

ついに来るべき時が来てしまった。
あれだ、あれが浦賀にきたんだ。
予想だにしない早い到着に、こちらとしてはまだ準備不足の感が否めない。
先人は何事も準備が大切というが、なかなかどうして準備というものは直前にならないと腰をおろしてできないものだ。もちろん直前にした準備など、たいした物が揃うはずもない。
が、しかしそのような物であっても使う人如何では、予想もしない結果を生むことも十分にありうる。今はそれを信じるしかあるまい。




さて、来てしまったものはしょうがない。
準備不足とはいえ、ここは一つ丁重にお迎えするしかあるまい。
うちは小さな田舎の旅館だが、中身の素晴らしさには定評がある。
それだけを頼りに20年間続けてきたんだ。
ペリーだろうが、ベリーだろうが、ペレだろうが、何でも来い。
あじの開きでお出迎えしてやる。
「さあゆくぞ、ゴンゾウ。」
確かにお前は犬だが、良い荷物運びをする。
うちのような貧乏旅館に、飯一つでうれしい顔をしてくれるような社員はお前だけだ。
尻尾を振っているお前に、今、ありがとうといいたい。



俺はピンクのスーツに身を包み、ゴンゾウと共に旅館をあとにした。