クランキー酒井とフランダースの犬

「チーズクリームメンチくださいっ!」
その日、少女は懸命に叫んでいた。
人が行きかう交差点の中央で、握り締めた拳を胸にあて、叫んでいた。
少女の服は既にボロボロで、今にも破れ落ちてしまうのではないかと思われるほどだった。
「ポテト大盛りで!」
再び涙ながらに彼女がそう叫んだとき、遠巻きに見ていたパチンコ店の店員が、ついにクスっと笑ってしまった。世の中、まだまだ変な奴がいるもんだ、そう思ったのだろう。しかし彼の何気ない笑いが、少女に笑顔を取り戻させた。
それまで交差点の中央で叫んでいた少女は、襟を正すと、パチンコ店の店員の下へつかつかと駆け寄っていった。彼の目の前まで来るや否や、その手を握り締め、言った。
「今度はあなたの番ですっ!」
一瞬、店員はあっけにとられたものの、周りの様子からすぐさま事態を飲み込んだようで、その顔はナスの如く青ざめていた。彼の周りにテレビ局のクルーらしいメンバーが続々と結集しつつあり、その中の一人の手にはプラカードが握られているのが見えた。この集団の中から、少し太めのプロデューサーらしい男が一歩前に出てくると、彼はプラカードの文字は読めますか?といった仕草をしてみせた。男は小さめに頷くと、声もそぞろに口に出した。
「ミルクティー・・・プリーズ・・・。」
これを聞いた先ほどの少女が、体全体で○のポーズを作った。
少女の動きにあわせるかのように、その場にいた男達もまた同様に○のポーズを作った。
その瞬間、新たな契約が成立した。


パチンコ店の店員であった男は、その4日後、小岩井農場にて、一杯のミルクティーのために逮捕された。