侯爵殿、それは私のあれでございます

酷いなんてもんじゃない。
もう何日青ざめたことか。
朝起きて、PCの画面を見るのが嫌だった。
「今日も同じ事を……」
そう呟きながら、PCの画面から目を離し、クレヨンしんちゃんのビデオをつけた。
泣けた。
普段のはそうでもないけれど、映画版は泣ける。
それからPCの画面をちらりと見た。
「またやられた」
全滅している。


これまで英雄のひとりや二人がやられていることはあった。
だが、今回はそうじゃない。
初めての全滅だ。
うちの選りすぐりの英雄が見事にぶっ倒れている。
「なんてことを……」
とりあえず二階のベットで暴れてみた。


四六時中画面に張り付いていることなんてできやしない。
かといって、リアルマネーつぎ込みでやるなんて財力もない。
となるとこのゲームではカモにされるのが関の山なわけだが、そんなためにプレイなんてしたくもない。
いっそのこと止めてしまえばいいのだが、折角ここまで作ったというのもある。
そして微妙に面白かったりもする。
だが、こうして現実を見ると非常に厳しい。
財力のある奴には到底かなわない。
なんとかするしかないな。
そう思って近くの侯爵を訊ねてみることにした。


近くの侯爵は思いのほか上機嫌で、僕を見るとすぐに手をのばしてくれた。
「君の役に立とう」
よくわからぬまま、僕は彼の庇護をうけることになった。
だが、この時は彼の下心というものを僕はまだ理解していなかった。
後に僕は彼の異名を知る事になる。
彼の異名とは、「又嗅ぎの俊哉」というものだった。
後のことは察して欲しい……。