奇跡の風、神田川に吹く!?

一睡もできないまま、風を追いかけて神田川へきた。
川の水は濁ってはいるが、ただひたすらに脈々と流れ続けている。
それはまるで、東京という大都会に流されて生きているボク自身のようだ。




眠い。
とても眠い。
眠気眼をこすりながらぼーっとしているボクの手の中に、3枚の紙が落ちてきた。
紙には何かが書いてあった。
でもうまく読めない。
斜めにしてみても逆さまにしてみても、どうにもうまく読めない。
そうこうしているうちに、誰かがボクの手から紙を奪いとった。
ちょっとまって!まだ読んでないんだ!っと言いかけたけれど、ボクには奪い取った人の後ろ姿さえも見えなかった。なんだか少し落ち込んでしまった。


気分を切り替えて、そのまま神田川沿いに下っていき、秋葉原の街をしばらく歩いた。
するとある変化に気付いた。
おばあちゃんがいるのだ!
この街でおばあちゃんの集団を見たのは久しぶりだ。
というか、はじめてかもしれない。
それほどお年寄り、特に女性のお年寄りとは縁のない街だったのだろう。


大分歩いたのでお腹が減った。
いつものガストへ行き、ランチメニューを頼む。
店員さんはシャキシャキとしていて、とてもおいしかった。



帰りの空。
淀んだ雲の中にボクは何も見出せなかった。
気が付けば隣にしまちゅう。
彼もまた淀んだ雲を眺めている。
ボクらは高いところを目指すため、小さな飛行機を作っていた。
飛行機の名前はマギーシロウ。
飛ぶ前に壊れた。


「もう一度、設計図から練り直そうか。」
誰かが右の耳元で囁いてきた。
「いや、君の描いた設計図は間違っていない。もう一度がんばるんだ。」
また誰かが、左の耳元で囁いてきた。
両方の耳を手で塞いでみる。
・・・何も聴こえない。
いや、何かが聴こえてくる。
ドクン・ドクン・ドクン
心臓の音?
それともこれは、声?
何かを切実に訴えかけるかのように、ボクの中の音が次第に大きくなっていくのが分かった。
隣を見ればしまちゅう。
彼もまた両耳を塞いで、内なる声に耳を傾けている。
彼は・・・、何か聴こえたのだろうか?
ずっと目を閉じたまま、気持ちよさそうな口元をしている。
今はそっと、3本のひげと瞼に第三の目を描いてあげたい。



ボクらはそのまま地下鉄に乗った。
地下鉄の駅のホームのベンチで、ボクラは電車が来るのを待った。
それは長い沈黙の時間だった。
その沈黙を壊すかのように、隣で新聞を読んでいた無精髭のおじさんが、読んでいた新聞をぐしゃぐしゃと丸めると、ボクらの方を見るなり罵声を浴びせてきた。
「大人になってまで、大空を飛ぶ夢を捨てず、飛行機を作ろうとしている君たちはバカだ。」
とても悔しかったが、ボクらは何も言い返さなかった


地下鉄を降り、またどこかともしれない街を歩く。
そこでふと見上げた街頭テレビには、アップルコンピュータのCMが流れていた。
「でも、世界を変えるのは、そんなバカたちだ。」
なんだか、とても心強かった。