ベジタブルミックス

 朝起きると、いや昼起きると目の前にはスティック型のパンが置かれてあった。このパン、スティックパンという名の通り、ただ長いだけのパンかと思うなかれ。どこからどう見てもおいしそうなのである。焼き具合といい形の滑らかさといい、まるで香ばしい匂いが見ているだけでも伝わってくるかのよう。ここに写真に撮ったものを載せてもいいのだが、それではこのパンのおいしさは伝わるまい。所詮RGBの光では、このパンの美しさは表現できぬと思うからだ。


 さてはて、何ともおいしそうなパンが目の前に転がっているわけだが、今、私は猛烈にダイエット中なのだ。四月までに5kgの減量を目指して日々食事制限と運動の嵐・・・の予定なのだが、まだうまくはやってない。運動も、NHK教育テレビで見かける体操のお兄さんの動き程度にとどまっている。体操のお兄さんの得意技である左右のゆれる動き、これ自体は完璧に演じきっていると思われるのだが、そこから先の前進運動には至っていないという始末だ。せめて前進運動にまで至っていれば、このおいしそうなパンにかぶりつくことも許されよう。しかし今は・・・。


 かくして私はパンを食すことを諦め、いつものラグナロクオンラインをプレイし始めた。こういったクリック型のオンラインゲームは右手首の運動にちょうどよく、普段からそれで鍛えているせいか、右手の筋肉だけには自信があるようになった。一方でこの運動には難点もあり、それは終始座ったままであることや目の運動がほとんどないこと、また頭を使わないことといった弊害が大きいことであり、ゆえにあまりの長時間プレイは素人にはお勧めできないのである。



「いや・・・ちがうのだ。これは何かの間違いだ。」
午後4時を過ぎた頃だろうか、あのスティック型パンが入っていた袋を見ると、そこにあったはずのパンが数本消えているではないか。袋は何者かによって無残にも引き千切られ、あたりにはパン粉がこぼれていた。私は怒りに震え、思わず叫んだ。
「コナンだ、コナンを呼べ!話はそれからだ!」



 私しかいるはずのない部屋で、しかも各方面共に施錠された密室の中で起きてしまったパン泥棒の事件。当初、事件は迷宮入りするかのように思われたが、名探偵コナンの登場により、密室パン泥棒事件は意外な解決を見せ始めることになった・・・。