ねぇ、そこの君。タイトルを見て逃げないでほしいんだ……。

今日はちょっと趣向を変えて、とある百貨店に来てみることにした。
此処に来た理由はただ一つ。
私の話を聞いてもらいたいのだ。
ここ数カ月の間に起きた信じられない出来事の数々を、じっくりと聞いてもらいたいのだ。
相手は誰でもいい。
老人でも子供でも仕事をサボって居眠りこいてるサラリーマンでもいい。
とにかく、人でさえあればそれ以上は望まない。
もう犬や猫相手に話すのは疲れたんだ……。


百貨店に入ると、さすがにスーパーとは違い、店員から挨拶された。
「いらっしゃいまし」
綺麗なお姉ちゃんが頭で美しい弧を描きながらお辞儀してくれた。
その光景を見た瞬間、思わず俺の中の誰かが、「サマーソルトキック!」と叫んだ。
途端にお姉ちゃんの顔がガイルに早変わりした。
そうなってしまった以上、もう見ていられなかった。
俺はそそくさとその場を離れ、話を聞いてくれる人を探した。


地下の食品売り場から少し離れた場所に高級菓子売り場があった。
見るからに高そうなスーツを着込んだ親父が、舌先をペロペロさせながら販売員のお姉ちゃんの後姿を眺めている。
「よし、こいつに決めたっ!」
ポケモンを捕まえるがの如く、俺の心はこの親父に胸きゅんになった。
早速後ろから気付かれぬように迫り、そのまま簀巻きにして連れ去った。
親父を背負って俺は走った。
走った走った、みつけたこの便所だ。
そこから小一時間、俺とスーツ親父の語らいの時間となった。