ゼットン故郷に帰る

スーツ親父は当初、自分の身に何が起こったのか理解できず、便器の上で必死にもがいていた。
その口を押さえながら、俺は赤ん坊を寝かしつけるように繰り返しこう言った。
「Yes, we can...Yes, we can...」
スーツ親父は次第に大人しくなった。
どうやら俺の言いたいことを理解したらしかった。


俺はまずゼットンのことから話した。


ゼットン。こいつと俺の仲も、もうかれこれ3カ月ほどになるだろうか。
大阪のお好み焼きやのオヤジに頼まれて、荒くれ者のゼットンとセイヤを捕獲したのがその頃だ。
その後、オヤジとの音信が途絶えてしまい、俺はゼットンとセイヤのメシダイに窮するようになった。
なにせこいつらの食う量ったら半端じゃなかったのだから。
そんな時に怪しげな手紙を受け取った。
その手紙には、セイヤを解放してくれればチョリソー100本を渡すと書かれてあった。
俺は喜んでセイヤを解放したが、チョリソーは送られて来ず、なぜかセイヤを捕まえたとして巡査長が英雄になっていた。


それからひと月ほど経った。
飯時、箸で沢庵をつまみつつ、ゼットンの方を何気なく見た。
「おほっうほぅっうっほ!」
俺は奇怪な声をあげた。
見ればゼットンが、あのゼットンがなぜか急激に男前になっていた。
「お前、どうしたん」
「お世話になりました、隊長」
俺は隊長でもなんでもないが、とにかく隊長らしく振る舞わねばと思い、ゼットンの肩を掴んで優しい声をかけてやった。
「よく厳しい修行に耐えてきたな、行っていいぞ」
こうしてゼットンは旅立っていった。
……はずだったが、なぜか籠に入れた赤ちゃんを置いて行った。
籠には置手紙が入っており、そこには「お世話になったお礼です」と書いてあった。
当時はまた食費が!と激怒したものだが、この子を連れてスーパーに行ったところ、偶然取材に来ていたテレビ局のカメラに写り、そのおかげで一躍金が入るようになった。なんでも若い娘のハートを捉える顔なのだとか。よくわからん。ひとまずこれでゼットンとセイヤの食費の穴埋めができた。