最高と最悪の狭間で

一方で整理しても使えない部屋がある。
607号室だ。
ここはかつてアジアンレスキュー隊が占拠していた部屋で、今は黒焦げになり、滋養強壮栄養剤トリプルCの倉庫になっている。トリプルCとは、先月昆虫の混入が確認され、各地から返品を受けた品物だ。それがなんでうちにあるのかは、まあ後で話す。


9月の某日、決死のアタックでアジアンレスキュー隊を追い出すことに成功したものの、彼らは退去の際にこともあろうか火をつけていった。幸いロボットのふたしくんが火を発見し放尿というか放水してくれたから助かったが、部屋は黒こげになってしまった。
その後、アジアンレスキューがどこに行ったかは分からないが、彼らの悪い噂話は聞こえてくる。
あっちでカツアゲしたの、こっちで喧嘩したのと全くロクなもんじゃねぇ。


とかくそんな訳で今607号室はトリプルCの倉庫になってしまっている。
が、正直なところこのトリプルCもなんとかしたい。
例の昆虫混入事件のせいで全く売れず、返品の山だけが毎日のようにやってくる。
昨日も万単位で送られてきた。
正直、「これは会社に……」と思うのだが、その会社も不景気で業績が悪く、夜逃げの準備をはじめている始末。とてもじゃないが引き取ってくれなんて言えない。だからこうしてうちで預かっているわけだが、それにしてももう送ってこないで!と言いたくてしかたない。
今はトリプルCのパッケージを見るたびに、「どうして昆虫入りドリンク」と明記しなかったんだと愚痴をこぼしてしまう。
いつになったらほとぼりが冷めるのやら、と半ばあきらめの様で眺めているが、全国代理店の数が半端じゃないので、まだまだしばらくの間は返品の山が届きそうである。しかし同時に唯一の望みというか、展望もある。巷で騒がれ始めている昆虫ブームだ。特に子供を中心とした新しい虫を食べる人たちの動きが気になるところではある。彼らならこのトリプルCも消費してくれるのではないか、などと思ってひそかに期待をかけている。