バルト三国

 ドイツを抜けたボクは、そのまま西を目指した。
気分を盛り上げるために「Go West」の歌を口ずさむ。地図帳を押さえる人差し指に力が入る。みなぎってきたwwwwwwwwっうぇwwwwwwwwwwww、ってな具合だ。
ところで、力の入れ方というのは古今東西様々なものがあるが、この「みなぎってきたwwwwwwwwwwwwwうぇwwwwwww」に勝るエネルギー補給の方法をボクは知らない。オリンピックで闘う選手にも、是非真似て欲しい方法だ。



 さて、ボクを乗せた列車はついにあのバルト三国のうちの一国、ラトビアにまでやってきた。ここから北へ行けばエストニア、南に行けばリトアニアなのだが、どちらの国へ行くべきなのかボクは決断に迷っていた。エストニアにいけば、フィン・ウゴル系民族に会える。他方、リトアニアに行けばリトアニア人に会える。どちらがいいのか悩みどころだ。
時に、今ボクがいるこのラトビアという国は、もともとはフィン・ウゴル系民族が住んでいた土地だったが、バルト人が後からやってきて彼らを追い出し、果ては民族浄化、すなわち虐殺を行ったため、現在ではフィン・ウゴル系の民族を見ることは殆んどできない。しかしそのバルト人もまた、ロシア人によってこの国から追い出されるかもしれないという危機感に襲われているというのだから、何とも歴史とは不思議なものであると思う。


 北か南、どちらへ行くべきか?
なかなか答えを出せないでいるボクに、一人のおじいさんが話しかけてきた。
「青年よ、どこから来たね?」
「日本です。」
男前に答えてみせた。しかしおじいさんは怪訝そうな顔をして再び訊ねてきた。
「・・・どこだね、それは?」
まだまだ日本はメジャーな国とはいえないのだろうか。それともこのおじいさんが知らないだけなのだろうか。ボクはとりあえず日本について説明してあげることにした。
「日本とはジャポニカ学習長のことです。」
おじいさんの目が光る。
「そうか、あの国か。ありがとう青年、よくわかったよ。この先もがんばるのだぞ!」
ジャポニカ学習帳にすっかり気をよくしたおじいさんから、200リガの金と紅花色素で見事に染まったターバンを貰った。
「何でターバン・・・。」
どうやら次はインドへ行けということらしい。きっとそれがおじいさんの導きなのだろうと思い、ボクは地図帳を静かに閉じ、次なる旅への準備を始めることにした。