荒唐無稽物も文化財になりたいの・・・の巻

朝起きるといつもより喉が少しいがらっぽい。が、そのことを気にも留めず風呂に入り、ご飯を食べ、外出の準備をする。ちょうど時計が5時を回った頃だろうか。昨日のすさまじい雨、その雨に見舞われた中、必死に自転車をこぐ男の姿が脳裏をかすめた。彼は紛れも無くジャズダンスのプロであった。一時的な大雨とはいえ、その中を突き抜ける彼の腰つき、ハンドルさばき、ギアチェンジの再の手際良さ、どれをとっても一級品であった。


あの雨から一夜明けた今、かくして私は彼のもとへ弟子入りすることになった。もちろん弟子入り直後の私に、過不足ない練習などさせてもらえるはずもなく、始めは彼の稽古を窓ごしから眺めるだけだった。それから数ヶ月がたち、徐々にモダンジャズのステップが頭に入ってきた。
「1,2,3、、、、ここでスロート、ターン、ターン、ステップ、ボンジョビ。」
ただ見ているだけとはいえ、彼の踊る後ろ姿には言葉に表しきれない程の哀愁があった。そして、その後ろ姿ばかり見ていた私もまた、彼と同様に、今ではモダンジャズが踊れるようになっていた。


そんなある日のことだった。いつも窓越しで見ているだけの私に、彼が話しかけてきてくれたのだ。
「新しいステップがあるんだ。踊ってみないかい?」
まさかその言葉が私の人生を変える事になろうとは、このとき予想もつかなかった。