タンメン

ここは中華街。
多くの華僑が訪れ、自身の夢を叶えてゆく場所。
今日もまた一人、腕一杯にタンメンを抱えた男がこの道にやってきた。


男の名は、劉典。
まだ20歳の若者だ。
彼のポケットには片道の切符があった。
しおしおになっている切符であったが、それが今の彼にとってはかけがえの無い宝物のように思えて仕方ないのであった。



「通行証を拝見いたします。」


狭くなった通りの先、そこに聳える城門の前で通行官が中華街へ入場するための通行証を確かめている。中華街へ入るためには政府発行の通行証が必要であった。


劉典は思わずタンメンの中を見回した。
「大事なものはいつもタンメンの中に。」
それが故郷のおばさんの口癖だった。
しかし、タンメンの中にそれは入っていなかった。


船の切符を大事にするあまり、故郷でおじさんから頂いた通行証を何処かに落としてしまったようであった。腕一杯のタンメンを抱えたままの彼は、失意と絶望の中、ただその場に立ちすくんでいた。


それから幾時が経っただろうか。
彼はあの巨大な城門を越える計画を立て始めていた。
長く、そして力強く繋がったタンメン。
こいつを城門の上に届けることさえできれば、それをよじ登って中に入れる。
だが、彼の計画には一つだけ問題があった。
一体誰が城門の上でタンメンを受け取ってくれるのか・・・。
この地には、彼の知り合いなど一人もいなかった。