美女とタンメン

張鈴は中華街でも名のある士の娘で、とても美しかった。
彼女が歩けば、その後を何人もの男が着いていくのが常だった。



「あらまあ、張鈴ちゃん。今日はお一人かい?珍しい日もあるもんだねえ。」
「もう、おばさんたら。ちゃんはよしてよ。私はもう子供じゃないのよ。それに私はいつも一人よ。・・・そりゃ変な人がついて来る事はあるけれどさ。」
「うふふ。おばさんももう少し若ければねぇ、あんたの負担を軽くしてやれたのだろうけど。如何せんこの年じゃ。もう出すもんも出せんでよ。」


おばちゃんはちょっぴり下好きであった。



そんな何気ない世間話に巻き込まれながらも、張鈴はいつものように酒場へと向かった。今夜の父の酒を手に入れるためである。酒場のマスターとはもう長年の付き合いで、張鈴がわざわざ銘柄を言う必要など無く、ただ姿を見せるだけでよかった。


「ほいよ、いつものだ。お代はそこのところに置いといて。」
「ほんっとマスターは不器用な男だね!もっと丁寧にできないのかしら。そんなんじゃお客さんいなくなっちゃうよ?」
「ご心配はいらねぇよ。あいにく今夜もこの繁盛だ。むしろ心配なのはお前の親父さんのところよ。物知りなのはいいが、あれじゃ毎日火の車だろう。」
「うちは心配ご無用よ!ノープロブレム!いざとなったら私がいますから。」
「・・・お前さん、色気はあるけど商売気がねぇ。」
「なによ。やる気?」
「おうおう、かかってこいや。乳パットもいだるで。」
張鈴と酒場のマスターの会話はいつもこんな調子であった。



父の酒を受け取り、店を出た張鈴はそこで山盛りのタンメンを見た。
彼女の胸は激しくときめいた。
タンメンにではなく、そのタンメンを抱えるオドオドした男にだ。
普段から積極的な男にばかり接する事が多かった彼女にとって、こんなシャイな男性は初めてであった。今、彼女の頭の中はタンメンの男のことで一杯だった。
いても立ってもいられなくなった張鈴は、タンメンの男に近づくと、ぶっきらぼうにこう言った。


「夜になったら城門の上で待っているから。」


そう言うや否や、彼女は一目散に城門の中へと走って行った。



不意をくらった劉典はひどく驚いた。
さっき立てたばかりの自分の計画が、洩れている。
・・・いや、そんなはずはない。
自分は誰にも喋ってはいない。小声で呟いたりなんかも・・・していない。
だとすれば、彼女は超能力者か何かの類か。
そうして妄想を膨らます劉典であったが、とりあえず今はあの城門の中に入ることが先決であり、彼女が何者であるかどうかなどどうでも良いことであった。ここは彼女の言葉を素直に受け取り、夜が来るのを待つことにした。