コンバット伊藤とはてしない空の物語

どこまでもはてしない青が広がる海。
時には激しく、また時には優しく岸へと押し寄せる波。
その海水の流れゆく様を、松の生い茂った崖の上から静かに見つめる二人がいた。
伊藤さんと高井さんである。
二人はもう何年も同じ屋根の下で共に暮らしてきた仲であった。
今日この場所で、こうして二人体育座りをしながら海を眺めているのには訳があった。



話は昨日の室内ボーリング大会に戻る。
その日、彼らはいつものように室内でボーリング大会をはじめた。
参加者は伊藤さん、高井さん、小柳さん、舛添さんの4人である。といっても、小柳さんは猫であるし、舛添さんにいたっては鼠である。人間と呼べるのは伊藤さんと高井さんの二人だけだ。
そんな中、事件は起こった。
1番最初に投げるはずの舛添さんがどこにもいないのである。
咄嗟に高井さんは小柳さんの顔を見た。小柳さんの顔は見事なまでのおたふく顔であった。そして、その顔にはうっすらと涙の跡が見えたという。
伊藤さんは声に成らぬ声で呟いた。「ぼくたちは、一緒に居てはいけなかったんだ・・・」。
ボーリング大会はこうして開始直後に終了することになった。
その後三人は、舛添さんを惜しみながら「トムとジェリー」を見たという。



といっても、これが二人が海を眺める訳ではない。
それでは話をもう少し前に戻そう。
それは雨降る暑い午後のひと時だった。
いつものように伊藤さんは、近所のコンビニで弁当とペットボトル入りコカコーラ500㎜を買って来た。それを見た高井さんが、「弁当にペットボトルではかわいそうだ・・・」と言い、大きな水筒をくれたのだ。中にはおいしい水が入っているという。
そして事件は起こった。
後日、伊藤さんの家では電話が鬼のように鳴り響いた。電話の音があまりにうるさいので、伊藤さんは渋々受話器を持ち上げた。すると、受話器の中からそれはそれはこの世のものとは思えぬ美しい声の女性が語りかけてくるではないか。
「あなたが飲んだのは、きれいな水ですか?それともきたない水ですか?」
その声にすっかり魅了されてしまった伊藤さんは、素直な気持ちで答えた。
「いえいえ私が飲んだのは、おいしい水です。」


こうして伊藤さんの家には、毎週欠かさず”おいしい水”が届くようになったという。








どこまでもはてしない青が広がる海。
時には激しく、また時には優しく岸へと押し寄せる波。
その海水の流れゆく様を、松の生い茂った崖の上から静かに見つめる二人。



突然、伊藤さんの頬を涙が流れる。


「青い空が、みたいです。」


伊藤さんは隣にいた高井さんにそう語ると、ゆっくりと彼の方を振り向き、小さくうなづいた。次の瞬間、すっくと立ち上がった伊藤さんは、手を小さくバタつかせて崖から飛び降りた。